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香港にニューヨーク条約・CISGは適用されるか?

tag: CISG,仲裁,契約法,香港法

藤本です。

昨日、知財協会さんで「国際契約ベーシック 米国・欧州・中国の契約書」というテーマで6時間の講演をしてきました。

http://www.jipa.or.jp/kensyu/seminar/annai/teirei/pdf/nishi_w_course.pdf

その際に、香港は、仲裁に関するニューヨーク条約の締約国ではないけれども、香港に同条約の適用があることについて説明をさせて頂きました。

香港は、「一国二制度」の中で、高度な自治を保証されていますが、実は、独自の条約締結権もあります。逆に、中華人民共和国の締結した条約を香港に適用することもできます。以下、香港の憲法と言われる、香港基本法の関係条文を引用します。

  • 香港特別行政区は、経済、貿易、金融、港運、通信、旅行、文化、体育等の領域において、「中国香港」の名義で、単独で世界各国、各地域及び関係する国際組織と関係を維持、発展させ、関係する合意を締結、履行することができる(基本法151条)。

  • 国家を範囲として参加する、香港特別行政区と関係する、適切な領域の国際組織及び国際会議に対して、香港特別行政区は中国の代表団構成員として派遣し、又は中央人民政府及び上記国際組織、会議で許された身分で参加し、「中国香港」の名義で意見表敬をすることができる。香港特別行政区は、「中国香港」の名義で国家を単位としない国際組織及び国際会議に参加することができる(基本法152条)。

  • 中国が締結した国際合意は、中央人民政府が香港特別行政区の状況及び必要に基づき、香港特別行政区の意見を徴求した後、香港特別行政区に適用するか否かを決することができる。中国が加盟していないが香港に適用されている条約は引き続き適用されるものとする(基本法153条)

ニューヨーク条約については、中華人民共和国がニューヨーク条約の締約国であるところ、その効力を香港にも及ぼす宣言(書簡)を中華人民共和国が国連事務総長宛に出しています。上記のとおり香港基本法153条前段により、香港にも合法的に適用されることになります。

この趣旨の説明をしたところ、昨日、会場から、ではCISG(国際物品売買契約に関する国際連合条約 United Nations Convention on Contracts for the International Sale of Goods)はどうなのか?という質問があり、私は、恥ずかしながら即答ができませんでした。中華人民共和国は、CISGが成立した時からの締約国ですが、イギリスは、当初から今までCISGの締約国ではなく、CISGを香港に適用させることは、「香港の現有の法律、すなわち、コモンロー、エクイティ、制定法、附属立法及び慣習法は、基本法に抵触するか又は立法会が改正したものを除き、維持される。」との香港基本法8条に反するような気もしまして、一旦調べて回答する、ただ、3回シリーズの講義の最終回が私の担当でしたので、この創知のホームページで回答すると答えて、確定的な回答を留保しました。

そして調べてみたところ、結論的に、香港にCISGは適用されないということが分かりましたので、この場で報告させて頂きます。

すなわち、ニューヨーク条約と異なり、中華人民共和国は、国連事務総長宛に、CISGを香港に適用する旨の書簡を出した事実はありませんし、香港基本法153条前段の手続がなされた形跡もありません。故に、CISGは、香港には適用されず、このことは、上記のとおりもともとイギリスがCISGの加盟国ではないことを併せて考えると、明らかと言えます。

詳しい説明は、https://www.cisg.law.pace.edu/cisg/countries/cntries-China.htmlに譲りますが、この趣旨の判決が米国(United States District Court, Northern Distrifct of Georgia, Atlanta Division Innotex Precision Limited v. Horei Image Products, Inc., et al. Case No. 1:09-CV-547-TWT17 December 2009)や、フランスでもあるようです。

また、この点について、香港ソリシターの雑誌である香港律師2015年7月号の14頁にも記事が載っています。良ければ併せてご参照下さい。

なお、以下は念のための記載ですが、香港にCISGの効力が及ばないとしても、他の条約締約国と香港との間の売買契約の準拠法として、他の条約締約国を選択すれば、当然CISGの適用があります。例えば、日本と香港との間の売買契約において、香港法を準拠法とする場合に、CISGの適用はないけれども、日本法を準拠法とする場合(かつ、CISGの適用を明文で排除しない場合)は、CISGは適用されます。

  • この条約は、営業所が異なる国に所在する当事者間の物品売買契約について、次のいずれかの場合に適用する。

  • (a) これらの国がいずれも締約国である場合

  • (b) 国際私法の準則によれば締約国の法の適用が導かれる場合(CISG第1条)

いやいや、講演をしたときの質問は、貴重ですね。勉強になりました。