【弁護士ストーリーズ】
第3回:池田千奈弁護士:語学の挫折から、言葉を武器に戦う道を選んだ新人弁護士の原点
創知法律事務所の個性豊かな弁護士たちの素顔に迫るインタビュー企画「弁護士ストーリーズ」。
第3回は、2026年4月に加入した、78期・池田千奈(ゆきな)弁護士。
現役で上智大学外国語学部に進学するも、語学の壁に直面して中退。その後、京都大学文学部への再入学を経て、同大法学部へ転部。そこから予備試験・司法試験を最速で突破するという、異色の経歴を持っています。
なぜ弁護士という職業を選んだのか。藤本一郎弁護士が鋭く迫ります。
| 池田千奈弁護士 | 藤本一郎弁護士 |
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両親の反対を押し切り「既成事実」で進んだ語学の道
藤本: 今回は今年4月に弁護士登録したばかりの池田千奈先生にお話を伺います。池田先生の履歴書を見ると、京都市立堀川高校を卒業後、現役で上智大学の外国語学部イスパニア(スペイン)語学科に入学されています。当時は弁護士になろうという気持ちはあったんですか?
池田: 一切なかったです。将来の夢というより、「言語に興味があるから語学の道に進みたい」ということだけは決めていました。
藤本: ご両親がお医者様とのことですが、親の立場からすると「医者になれ」とか「専門職に就け」というプレッシャーがあったのではないですか?
池田: 医者になれとは言われませんでしたが、教育熱心で、恐らくは、「旧帝大(東大・京大など)に進んでほしい」という思いがあった気がします。なので、私が語学に特化した大学(上智大学)を選んだことには、最後までバチバチに反対されていました。
藤本: なるほど。どうやって説得したんですか?
池田: 最終的には折れてくれたというか……もう「受験票を出してしまったらこっちのものだ」という感じで(笑)。事実先行型ですね。
藤本: 退路を断って、行きたいところだけを受けたわけですね。高校時代にニュージーランドへの1年間の留学も経験されていますが、それが進路に影響を与えたのでしょうか?
池田: ものすごく大きかったです。留学を通して「違う言語で話す」ことが自分に合っていると感じました。英語は自分の中である程度マスターできた感覚があったので、次はスペイン語話者が多く汎用性の高い「イスパニア語」を学ぼうと決めたんです。
「L」と「R」の壁。語学の限界と、京都大学への再挑戦
藤本: そうして希望通り上智大学に進学し、親元を離れて夢のキャンパスライフが始まったはずですが……残念ながら卒業はされずに退学し、京都大学を受け直していますよね。何があったんですか?
池田: 実際に大学に入ってみて、「言語だけで生きていくのって、どうなんだろう?」と不安になってしまったんです。授業を受けても内容があまり入ってこなくなって……。
藤本: 何か決定的な出来事があったんでしょうか?
池田: 語学をマスターしている人って、総じて「耳がいい」という必要条件があるような気がして。私、留学中も最後の最後まで「L」と「R」の区別がつかなかったんです。高校時代のニュージーランド留学中、「ラウラ」という女の子と出会ったのですが、最初の「ラ」がLなのかRなのか、ずっと分からないままでした。そういうものかな、と当時は思っていたのですが、上智大学で語学ができる同級生たちはすごく耳が良くて・・・、そこで圧倒的な差を感じて挫折してしまったんです。
藤本: それはよくわかります。私も英語や中国語を使いますが、耳は良くないので、声の大きさや発音のメリハリでカバーしているようなところがあります(笑)。語学だけではダメかもしれないと気づいて、1年休学し、高校卒業から3年後に京都大学文学部に入学したわけですね。
池田: はい。ただ、その時はまだ「何をすればいいか」までは分からずに受けていました。
パワハラ店長との対峙。言葉が「武器」になることを知った日
藤本: そこで京大の文学部に合格し、2回目の大学生活が始まるわけですが、ここからなぜ法学部、そして弁護士を目指すことになったんでしょう? 年齢的には、高校時代のニュージーランドの留学がありますから、「4浪」扱いになりますよね。
池田: 京大に入ってみると、現役か1浪生がほとんどなので、実質4浪というだけで驚かれます。「このままじゃ新卒でどこも採用してもらえないんじゃないか」と身に染みて分かってきて……。4浪の私でも生きていくには、「専門職の下駄」を履いて戦うしかないと考えました。数学が超得意というわけではなかったので、文系専門職でネームバリューのある司法試験に行き着いたんです。
藤本: でも、法律への積極的なアプローチというよりは、消去法的なスタートですよね。自分が法曹として活躍するイメージは持てていたんですか?
池田: 実は、ちょっとした原体験のようなものがあって……。京大入学前の1年間、上智大学に在籍しながら、入試勉強に取り組むために、実家の京都に戻っていたのですが、飲食店でバイトもしていました。そしたら、バイト先の店長が机を蹴ったりするような、いわゆるパワハラ気質の人だったんです。当然、力では男性に勝てません。
藤本: それでどうしたんですか?
池田: 私、日記をつけるのが趣味なので、「何月何日、どこでこういうことをされた」と逐一メモをつけていたんです。ある時、とうとう堪忍袋の緒が切れて、「私はあなたの言動を毎回メモに残しています。これを公的な機関に持っていって指導してもらうことも考えています」と文章で伝えたんです。
藤本: おお!
池田: そうしたら、店長の態度が手のひらを返したように変わって。その時に、「暴力には勝てないけれど、言葉で人を動かすことはできるんだ」と実感しました。この体験も、言葉で戦う法学の世界へ進む後押しになったと思います。
藤本: 素晴らしいエピソードですね! 証拠を残して言葉で戦う。まさに弁護士の素質です。そのメモをとる力は、ぜひ今の実務でも存分に活かしてください。
予備試験に1発合格。「実質4浪」を一気に巻き返す
藤本: その後、京大の転部制度(京大の入学試験の成績が京大の転部先の合格水準に達していた場合には、特別な試験なしに転部を認める制度)を利用して法学部に転部されます。そこからの巻き返しがすごいですよね。
池田: 年齢がネックだったので、司法試験の平均合格年齢(27〜28歳)までに受かればみんなに追いつける、と目標を定めました。
藤本: 実際に、転部した翌年(学部3年生相当)である2023年度の予備試験に合格。そして2024年の司法試験に1発合格されています。これは実質的な浪人期間を大きく縮める、見事なショートカットです。周りに同じような境遇の人はいましたか?
池田: 全くいませんでした。ただ、授業や法律相談部で一緒になった友人と自主ゼミを組んで勉強していたので、孤独ではありませんでした。
藤本: 語学の勉強と法律の勉強、何が一番違いましたか?
池田: 語学は「言語の壁」があるため、どうしても大枠のニュアンスでしか伝えられないもどかしさがありました。でも、法律の勉強(日本語での表現)なら、定義や細かいニュアンスまで正確に伝えることができます。私にとっては法律の勉強の方が合っていたし、とても楽しかったです。
「私についてこい」と言える弁護士を目指して
藤本: 弁護士になって数ヶ月が経ちますが、実際に実務の世界に入ってみてどうですか?
池田: 先輩方や藤本先生の振る舞いを見ていると、解決への道筋を明確に示して「俺についてこい!」という姿勢で依頼者を安心させています。それが私の憧れです。今はまだ全然ですが、いつか私も「私についてきてください。」と自信を持って言えるようになりたいです。
藤本: 弁護士は法律の知識だけでは半人前で、依頼者の言葉にならない痛みを理解し、整理して提案する経験が求められます。池田先生の「語学での挫折」や「遠回り」は、他者の痛みを理解する上でとても素晴らしい武器になるはずです。
藤本: ところで、語学での挫折はありましたが、英語とスペイン語両方ができる弁護士は、そう多くはないと思います。語学と法律、両方を生かす道とか、ありそうですか?
池田: いま、大阪弁護士会の国際委員会で色々な活動をさせて貰っています。また、事務所にも、外国人のクライアントや、外国語を使う機会が結構あるので、できたら、近い将来、弁護士としても留学してみたいな、と思います。
藤本:最後に、今まさに司法試験を受けている受験生、特にストレートな経歴ではなく不安を抱えている人に向けて、メッセージをお願いします。
池田: 人よりモラトリアムが長かったり、失敗した経験があったりしても、その期間が「無」になることは絶対にありません。その期間に体験したことや悩んだことに意味が持てるように、これから行動していけば、必ずその背景を含めて共感し、評価してくれる人が現れます。だから、これまでの道をネガティブに捉えず、ポジティブに前に進んでほしいと思います。
藤本: 力強いエピソードとメッセージ、ありがとうございました。池田先生の活動や、弁護士としての将来の留学など、これからの活躍を大いに期待しています!


