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内部通報制度の外部通報制度窓口と、「恋人コースか友人コースか」(藤本)

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弁護士法人創知法律事務所の藤本です。

皆さんは、どのようなドラマを見ますか?
私は、今更なのですが、SUITSを見るのにハマっています。このドラマ、弁護士は見た方が良いです、自分の半生を振り返るのに、とても適しています。このドラマで出てくる殆どの出来事(経歴詐称弁護士の話を除く)は、私にとって、いわば思い出のようなもので、ああ、あのとき・・・と思うことが多いのです。

さて、このシーズン4 第14話で「内部告発」のことが出てきます。以下はネタバレしますので、クリック注意してください。
SUITS しーずん4 第14話「内部告発」のレビュー

この回のドラマの中で、ハーヴィーがネーミングパートナー(≒代表弁護士)を務めるピアソン・スペクター法律事務所では、「内部告発」事件の代理はしない、ということを、その受任を望んだアソシエイト(マイク)に説明しています。これは、良く分かります。一般論として、企業の依頼者をメインとする法律事務所は、企業を害する事件となる従業員による内部告発事件の受任をあまり良しとしないのです。どうしても、従業員側と、企業側とでは、利益相反的になることが多いからです。

これを見た時に、私がいま、悩んでいることが頭に浮かびました。
最近、「内部通報制度の外部通報制度窓口」の受任が、比較的多いのです。

当弁護士法人は、企業法務を主たる業務の1つとしております。私自身も、上場・非上場、国内、海外を問わず、多くの企業のクライアントの案件を受任させて頂いております。そのクライアント様の「内部通報制度」において、「外部通報制度窓口」として、弁護士事務所を指定することが多くなってきました。

何故最近増えてきたかといいますと、消費者庁の2016年12月9日付け「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」 により、一般に「外部通報窓口」を設けることが推奨され、更に、上場企業の場合、2018年6月1日に改訂され施行された「コーポレートガバナンスコード」原則2-5において、内部通報制度の体制整備が取締役会の責務として明記され、これを受け、例えば、2019年2月から、公益社団法人商事法務研究会においては、内部通報制度の認証制度もスタートしており、いまや、上場企業・非上場企業を問わず、内部通報制度の外部通報制度窓口を整備することが、企業のスタンダードとして求められているためです(御社ではいかがでしょうか?)。

ところで、上記消費者庁ガイドラインにおいては、「通報の受付や事実関係の調査等通報対応に係る業務を外部委託する場合には,中立性・公正性に疑義が生じるおそれ又は利益相反が生じるおそれがある法律事務所や民間の専門機関等の起用は避けることが必要である」と記載されています(ガイドライン5頁)。

内部通報制度の外部通報制度窓口は、必ずしも、内部通報者の代理人ではありません(内部告発者の事件の受任をしようとしたSUITSにおけるマイクの立場とは違います。)。通報を受けて、企業が適切な対応を取ることができるように、法律の専門家としての法的見解を踏まえながら、企業と通報者の橋渡しをしてあげることがその役割です。企業内部ではない窓口として、通報をしやすくしてあげることが主たる役割です。つまり、ちゃんと窓口ができる限りにおいて、従業員が依頼者ではない訳ですから、企業の依頼を受けることがあっても、それのみで、従業員と企業との間の窓口としての中立性が崩れるというものではないと考えます。

しかし、このような窓口を受任すると、少なくとも、当該企業の従業員に対する労働案件の受任は、しづらくなります(企業の労働案件を受任しているということは、潜在的な通報者の相手方となって対峙することがあるということになりますので、中立性に若干の疑義が生じ得ると思います。)。つまり、外部通報制度窓口を法律事務所として受任することは、当該企業の他案件の受任に、少なからず制約を受けることになります。このような状況に照らしますと、非上場企業である場合は兎も角、上場企業の場合、内部通報制度を整備構築するに際して、その外部通報窓口として、顧問契約を締結していない法律事務所を指定することが望ましいといえます。

そこまで考えた上で、企業の外部通報制度窓口を当法人で受任することに、ちょっとした躊躇を覚えるのです。確かに、その企業の外部通報制度窓口として、その企業とお付き合いが生じることにはなるのですが、上記のような状況ですので、顧問弁護士という立場にはなりづらくなってしまうからです。まあ、外部通報制度窓口を辞めて顧問弁護士になるということは可能でしょうが・・・。社外役員になる場合と同じような躊躇といいますが、そういうのがあるんですよね。外部通報制度窓口の受任には。

もっとも、「誰か」は外部通報制度窓口の受任をする必要があると思います。弁護士に期待される外部通報制度窓口としての役割は、益々大きくなると思います。あるときは、顧問弁護士を必要としている企業があり、あるときは、既に顧問弁護士には満足しているから、別の役割として、外部通報制度窓口としての弁護士を必要としている企業があるのです。内部通報制度の外部通報制度窓口を比較的多数受任している私は、ちょっとモヤモヤしながらも、この受任の範囲では、その役割を貫徹しようと頑張っています。

伝わります?受任したくないというものではなくて(実際沢山受けている)、恋愛で、良い友達となってしまい、恋人コースにはもう行けないのかな、という諦めが発生するような、そういう感覚なんですよね、内部通報制度の外部通報制度窓口の受任って。この関係では、友人コース(内部通報制度の外部通報制度窓口)をしっかり頑張ろうと思うのですけどね。