弁護士の藤本一郎です。
私は、ご存じの方はご存じかもしれませんが、新型コロナウイルスの蔓延が発生して以後、例えば、「Gotoトラベル」事業の不当性を裁判(民事保全)で訴える等、全ての国民・全ての企業の安全と安心を確保するために、弁護士という立場で、できることをやってきたつもりです。
2021年2月3日、いまだ新型コロナウイルスの蔓延を防ぐことができていない我が国ですが、新型コロナウイルス対策を強化するための関連法案が成立しました。今日は、この関連法案について、弁護士の中では誰よりも早く、Q&A方式で説明をしてみたいと思います。
Q1 今回の改正の概要を教えて下さい。
Q2 改正法は、いつから施行されますか?
Q3 知事の休業要請に従わない飲食店は罰せられるようになったと聞きました。本当ですか?
Q4 知事が事業者にあれこれ強く言えるようになったのですから、財政上の支援は、従来より期待できるのでしょうか?
Q5 新型コロナウイルスに感染した後、保健所から入院するように言われたのを拒否したら捕まると聞きました。本当ですか?
Q1 今回の改正の概要を教えて下さい。
A1 今回の改正は、新型コロナウイルス感染症に係る対策の推進を図るため、「新型インフルエンザ等対策特別措置法」(以下「特措法」といいます。)に新たに「まん延防止等重点措置」を創設し(特措法31条の4)、営業時間の変更の要請、要請に応じない場合の命令等(特措法31条の6)を規定し、併せて事業者及び地方公共団体等に対する支援を規定するとともに、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下「感染症法」といいます。)及び検疫法において、「新型コロナウイルス感染症」を「新型インフルエンザ等感染症」の1つと位置付け(感染症法6条7項3号)、所要の措置を講ずることができることとし、併せて宿泊療養及び自宅療養の要請について法律上の根拠を設ける(感染症法44条の3の改正、48条の3の新設)等の措置を講ずるものです。
ざっくり言うと、特措法で、都道府県知事が従来飲食店等に行ってきた「営業時間短縮の要請」に法的根拠を与え、これに従わない場合の過料を設けたことと、感染症法に基づき行われている医療(入院、宿泊療養、自宅療養等)について、実態に合わせた規定を置き、これに従わない場合の過料を設けた点が大きいと思われます。
なお、かかる改正は、与党のほか、立憲民主党など野党の一部も賛成しましたが、国民民主党と共産党は、改正に賛成しませんでした。これは、「まん延防止等重点措置」の要件等、重要な部分が、法律ではなく、政令で定めるとなっており、「時の政権の裁量で恣意的に運用される余地を残している。看過できない欠陥法」だからだと主張されていました。確かに、そういう面もあるかもしれませんが、この1年、実際に都道府県知事が行ってきた「要請」「措置」等に法律上の根拠をきちんと与え、また、必要最小限の制裁を加えるという範囲では、評価をして良い改正であったのではないかと思います。
もっとも、法律の実際の運用は、政府・行政の仕事です。いかに評価できる改正法であっても、運用が滅茶苦茶であれば、新型コロナウイルスの蔓延を止められないと思います。多少なり、特措法も感染症法も行政から見て使いやすくなった筈ですので、是非とも、よりよい新型コロナウイルス感染症対策を行って頂きたいです。
Q2 改正法は、いつから施行されますか?
A2 2021年2月13日(成立の10日後)です。
Q3 知事の休業要請に従わない飲食店は罰せられるようになったと聞きました。本当ですか?
A3 やや不正確です。都道府県知事が、例えば営業時間の変更を事業者に要請したとします(特措法31条の6第1項)。この「要請を受けた者が正当な理由がないのに当該要請に応じないとき」、都道府県知事は、「当該者に対し、当該要請に係る措置を講ずべきことを命ずることができる。」ことになりました(特措法31条の6第3項)。この「命令」に違反した場合に、20万円以下の過料(緊急事態宣言の中の場合は、30万円)に処することができると規定されています。
つまり、正確には、「休業要請」に違反したことで直ちに刑事上罰せられるのではなく、その後の「要請に係る措置を講ずべきこと」の「命令」に違反したことで過料の制裁を受けるのです。罰金と過料の違いは、Q5もご覧下さい。
また、過料については、緊急事態宣言前において当初内閣原案では30万円でした(当初案80条)が、20万円と変更されて成立しています。緊急事態宣言中のおいて当初原案では50万円でした(当初案79条)が、30万円と変更されて成立しています。
Q4 知事が事業者にあれこれ強く言えるようになったのですから、財政上の支援は、従来より期待できるのでしょうか?
A4 この点については、法文上は、そうかもしれないと言えます。特措法63条の2(新設)では、事業者に対し、国及び地方公共団体は、「事業者の経営及び国民生活に及ぼす影響を緩和し、国民生活及び国民経済の安定を図るため、当該影響を受けた事業者を支援するために必要な財政上の措置その他の必要な措置を効果的に講ずるものとする。」と規定され、様々な施策を具体的に行う地方自治体に対して、国が「必要な財政上の措置その他の措置を講ずる」(特措法70条に2項を新設)と規定されました。これは、従前、特に事業者に対する補償の財源について特措法上の根拠が曖昧だったことに対してある程度明確化したものと評価されますので、今までより、事業者に対する支援を特措法の枠組みでやりやすくしたと評価することができるのではないかと思います。
もっとも、法律にそのように書いてあっても、実際の財政上の措置を行うのは国と地方公共団体の政治ということになります。折角、出しやすい法律に変えたのですから、法律の趣旨に従った政治がされるように、国と地方公共団体の政治をチェックしていかなければ、そういった措置は実現しないと思われます。
Q5 新型コロナウイルスに感染した後、保健所から入院するように言われたのを拒否したら捕まると聞きました。本当ですか?
A5 例えば、都道府県知事は、現行の感染症法においても、新感染症の所見がある者に対し10日以内の期間を定めて入院の勧告をすることができます(感染症法46条1項)。今回の改正では、その要件を若干精緻化した上で、その違反行為に対し、50万円以下の過料が規定されました(改正後感染症法80条)。当初の内閣提出法案では、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金と規定されていました(案72条)ので、与野党協議等によりだいぶ軽めの過料となりました。
過料は、罰金同様にお金を払わなければならないものですが、罰金が懲役同様に刑法で定められている刑事罰であるのに対し、行政罰です。前科にもなりません。しかし、払わないと、税金と同じように強制執行される可能性があります。